映画と現場 備忘録

しゅ〜かつの逃げ場

『チワワちゃん』


その日、東京湾バラバラ殺人事件の被害者の身元が判明した。千脇良子・20歳・看護学校生。ミキはそれが、自分の知っている“チワワちゃん”のことだとは思わなかった。


冒頭から響く大音量のEDM。ジェットコースターみたいな疾走感。自分とは真反対の世界に生きている同世代の彼ら彼女ら。全てが眩しくて刹那的で,無敵に見えました。



原作は1990年代に発表された岡崎京子さんの短編「チワワちゃん」。グループのマスコット的存在だった"チワワちゃん(吉田志織)"が,バラバラ遺体となって発見されたことから物語は始まります。追悼記事を書きたいから,と知っていることを教えて欲しいと頼まれた主人公ミキ(門脇麦)は,仲間たちにチワワとの思い出を聞きに行く。しかし残された仲間たちがそれぞれチワワとの思い出を語るうち,誰も彼女の本名や本性を知らないまま一緒にバカ騒ぎをしたり,恋愛をしたり憎んだり,キスしたりセックスしたりしていたことが明らかになっていく。








※以下ネタバレを含みます。









劇中最も心がぎゅーーーっとなってしまったのは,ナガイくん(村上虹郎)がチワワが起用された巨大広告を持ち帰り,床に広げた大きなチワワの上で幸せそうに笑うシーン。毎日どんな気持ちで街にいるチワワを見上げてたんだろ。そんな運良く貰えることなんかあるんか(笑) でも大きなチワワの上で寝転がるナガイくんは本当に可愛くて無邪気で,見ていて辛かった。
チワワが泳げないことを知っていてなのかは分からないけど,プールへ飛び込んだチワワの元へすぐに助けに行くナガイくんもカッコよかったな。虹郎が演じている贔屓目もあるかもしれないけど,私が「チワワちゃん」のこの世界にいたらナガイくんに恋するんだろうな…チワワを想うナガイくんに。


ナガイくんは映像作品を撮るためにいつもビデオカメラを持っているのだけど,彼はファインダー越しのチワワに恋したらしい。確かにそれだと思わせるシーンのナガイくんは本当に可愛くて。恋に落ちる瞬間の人の表情はなんて素敵なのかと,虹郎の演技力に敬服しました。純真さも憤りも,ナガイくんの青春の一部分を見せてくれて本当にありがとう。


寛一郎くんの存在感もすごかった。実力派で個性の塊の役者陣の中でも随一。チワワやヨシダくん(成田凌)と同じグループに属してはいるけど,どこか達観していて,先に大人になってしまったようなミキと,1番近いのはカツオくん(寛一郎)だったんじゃないかなと思いました。憤るナガイくんをなだめる様も,チワワとの会話も,カツオくんの好感の持てる"少し冷めてる感"が素敵だった。ミキはなんでヨシダくんに惹かれたんだろ……成田凌は色んな役やっててすごいな〜と思うけどやっぱクズでどうしようもない男が1番似合う。チワワはとっても可愛いけど,怖すぎるほど明るくて,いつも何考えてるか分からないような女がミキの好きな人も個性や居場所さえも奪ってく様はえげつなかった。ミキに幸あれ。



クラブやプールで遊んでるシーンはキラキラしてて華やかだったけど,撮影は大変そうだな〜どこまでアドリブなのかな〜と思ったら,ト書き1行で丸一日遊んだりしたとのこと…すごいな(笑) 女の子たちは水着や下着でいるシーンも多かったけど,よくこんな被らない系統で集められたな〜というぐらいみんなそれぞれに魅力的で眼福でした。ユミ(玉城ティナ)とチワワのプールでのキスシーンも目が離せなかった。


登場人物が目まぐるしく増えていくテンポ感は危うく置いて行かれそうになったので,原作や相関図見てから臨んでも良かったかな… ヘルタースケルターもリバエも先に映画を観て,今も原作を読んでいないまま。原作の「チワワちゃん」は1994年に発表されたものだから,映画にあるインスタとかはまだ無いわけで。でも青春のキラキラも痛さも始まりも終わりも,それ自体はずっと,何も変わらないままなんじゃないのかなと。これを機に岡崎京子作品に手をつけたい!


600万盗んで夜の街を全力疾走。クラブで飲んで踊ってのお祭り騒ぎ。どれも私のそれとは全く交わらないのに,過ぎてしまいつつある青春をちょっと懐かしく思いました。私は今ちょうどミキたちと同年代だけど,もっと大人になってから観るとまた違う気持ちになるのかもしれない。それなら今,同年代の今観れてラッキーでした。何年後かにまた観たいな。




あと虹郎にあの帽子被せてカメラ持たせてタバコ吸わせたのは大正解なので「チワワちゃん」には死ぬまで感謝,死んでも感謝します。ありがとうございました……