映画と現場 備忘録

しゅ〜かつの逃げ場

『十二人の死にたい子どもたち』


その日,12人の未成年たちが,安楽死を求め廃病院の密室に集まった。
「みんなで死ねば,怖くないから」
ところが,彼らはそこで13人目のまだ生あたたかい死体に遭遇。突然の出来事にはばまれる彼らの安楽死。あちこちに残る不自然な犯行の痕跡,次々起こる奇妙な出来事。彼らだけしか知らない計画のはず。まさかこの12人の中に殺人鬼が…?


キャストを公開せずに当てさせたり,「死にたい」と連呼する思わず引き込まれる予告だったり,多くの人に観たい…! と思わせる宣伝は凄く印象的で好きでした。リア友も皆観たいと言ってた。私も一刻も早く,ネタバレを踏む前に観たいという一心で公開2日目に観てきました。



40分の長回し…台本12ページ… 今をときめく彼ら彼女らが集まってこの作品が出来たことは本当に凄いことだなぁと。監督は若さゆえの危うさが良い形で撮れたとコメントしてるけど,観てるこっちも思わず緊張してしまった。十二人それぞれの名前と死にたい理由を知った上で観た方がより理解しやすかったかも…とも思いました。この二字熟語,映画観た後でみると何か違和感もあるけど…












※以下とってもネタバレを含みます。











観た人にしか分からんやつなのだけど,アンリ(杉咲花)の「おまたせ」は不気味だけど惹かれてしまう,たった一言なのに目が離せなくなる破壊力がすごかった…杉咲花ちゃんは強い意志があったりそれを持つに至った特異な(負の)経緯があるキャラクターを演じるのがすごく上手いと思います。『無限の住人』の凛が大好きなのだけど今回のアンリも良かったなぁ…

(私は花ちゃんの強い目と大きな耳が大好きなので,黒髪ロングぱっつん横髪ありは本当に彼女の外見の魅力が最大限に発揮されてると思いました…ありがとうございます…)



シンジロウ…というかまっけんは何であんなに役の幅が広いんだろう。億泰と同一人物とは思えない。映画『ちはやふる』で配役発表された時,まっけんが??新???となったけど見事に新だったし…あんなに容姿がキラキラしてるのに,暗かったり地味だったりなキャラクターになれるの,その演技力に脱帽。終盤のシンジロウの,「もうすぐ僕は自分の意思で何もできなくなる」という言葉が,絶望も希望も伴った感情が見えてすごく印象的でした。映画が始まる前,怖かったら手握っていい…? と友達に聞いてた前の座席の女の子はまっけんの演技に泣かされてた。

まっけんと言えば以前トーク番組で,「同年代(だったはず…)で共演したい人は? 刺激を受ける人は?」というニュアンスの質問に対して,「特にいません。でも唯一,杉咲花さんと共演してみたい。」と言ってたのを思い出しました。あの時はまだ今作が決まってなかったのかな。聞く人によっては生意気だな〜とか思われそうな発言だったけど,自分に対する自信と,役者という仕事への誠意が感じられて私は好きでした。そんな彼が唯一,共演したいと名前を挙げたのが花ちゃんだったのもまた杉咲花の凄みを感じてたから,今回のような作品での共演が叶って本当に良かったな。まっけんも花ちゃんも匠海も,よく刺激を受ける人物として同世代の役者から名前が出るけど,そんな彼らがこのタイミングで共演してくれてすごく嬉しく思います。



ノブオ(北村匠海)に関してはもう,リョウコ(橋本環奈)の顔を見たときの「びっくりするくらい可愛いね」に(うっうわ〜〜〜〜! )となってしまった……(ストーリーに集中したいのに"北村匠海が好き"という気持ちが勝ってしまう瞬間が時々ありますが,今回も例に漏れず…)でもシリアスな状況の中でこの台詞をノブオに言わせたのは天才の所業…ドキもキュンも無いと思ってたのにこんな所でドキドキさせられて悔しい…制作側にそんな意図ないだろうけど………

匠海は絶望や敗北の,負の感情とか体験を滲み出してくるなぁと。初めはそれが何かは分からないけど,何かがあったのだと思わせるのが上手い。画策している時もラストの表情もどれも好きでした。これまでも今回も,良い作品やキャラクターに恵まれているのは匠海の才能と努力の賜物なんだろうな……贔屓目じゃなくそう思います。



私はキャスト発表時(というか1番は真宙くんでしか無かったけど),この映画の主人公はサトシ(高杉真宙)なんだと思っていました。1番だし。フライヤーを見た時にあれ? 違うのか…と。サトシは集団安楽死の主催者なのに"死にたい"という感情があまり見えなくて,それがまた不気味で。真宙くんの『散歩する侵略者』の天野のようなサイコパス要素のあるキャラクターの演技が好きです。似合う。サトシも彼には一体どんな経緯が…? と思っていたので,ラストにはすごく納得しました。サトシは今後どうなるんだろうな…



プリンシパル組だ〜と思ってたメイコ(黒島結菜)の,醸し出る学級委員長感は『ごめんね青春!』を思い出しました。セイゴ(坂東龍汰)と2人で会話するシーンはこっちの胃がキリキリした。利己主義で気が強くて,自分の考えを疑うことなく口走ってしまう。メイコがどうしてこんな人間になってしまったのか,その経緯と死にたい理由をもっと深く知りたかったなぁと。

十二人それぞれに死にたい理由があるけれど,ミツエ(古川琴音)の言葉にグサッときた人も多いんじゃないのかな。彼女は大好きなバンドマンが自殺してしまい,後を追うために自らも死を選択して集った人。でもリョウコの正体が人気女優だと分かると,絶対に死んではダメだと,後を追う人がたくさんいる,あなたの命を他の人の命と同じと考えないで…と必死に説得する。

命は全て平等だと道徳の授業とかで教えられるじゃないですか。ミツエはこれと全く逆のことを言ってたけど,それも間違ってないよなぁと思います。ミツエにとっては何よりも彼が大切で,生きていて欲しくて,彼のいなくなった世界に自分がいる意味なんてないと本気で思っていたんだろうなぁ…リョウコ側からすると良い迷惑なのだろうけど。

あとケンイチ(渕野右登)がミツエに対して「そんなに好きになれるものがあってすごいよね!」と何度も言うけど,私の心の中は(おま……しつこいわ!)でした(笑) 監督から「空気を読まない芝居がこんなにうまい人もいない」とコメントを寄せられているのも納得の演技。



私と北村匠海の出会いはRADWIMPSの「携帯電話」のMVで,あの時は同い年だなんて考えられなかったけど,今はもっとそう思う。吉川愛ちゃんはみるくちゃんだし,Wikiったら萩原利久くんは『11人もいる!』に出てたりしてびびる。

芸歴の長い方もいれば,これからさらに活躍していくだろう方もいて,今をときめく実力派から初見まで若手が揃っていて見応えがありました。過去の回想も役者をほとんど映さなかったり,本人の口でしか語られなかったりしたのも新鮮でした。徹底した子どもたちの密室で,最後まで大人が画として現れないのだなぁと。序盤から登場する母子の像,初めはそれが母親と子どもだと気付けなくて,何か意味があるのか…と思っていたけれど,途中でそれだと気付いてゾクッとしました。命をくれた親が死にたい理由になることもある…



全てが謎の"13人目の死体"に対して,徐々に真実が明らかになる,各所に伏線が秘められている,という展開がすごく楽しめました。堤幸彦さんの作品はゾクゾクする楽しさがあって好き…今作もまた然り。

ただ観る前は雨の日に観たくなるような作品なのかなと思っていたけれど,全く逆の,青空が綺麗な日に観たい作品でした。映画館から外に出て空を見上げると綺麗な青空で,何だか心がスッとしたからかもしれません。作中で何度か登場する空は天気の移り変わりが激しくて,でもラストの空は本当に綺麗でした。天気の良い日にまた観たい。